台風と災害(4)

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神戸市防災気象官(気象防災アドバイザー)がお届けする「気象に関するトピックス」7回目は、前回に引き続き「台風と災害」です。前回は「台風による雨」を説明しましたが、今回は「台風による高潮や高波」を説明します。(この記事は、2021年10月27日に掲載しています。)

台風に伴う高潮

潮汐の仕組み

海面の水位(潮位)は、月や太陽の引力により約半日の周期でゆっくりと上下に変化しており、これを「潮汐(ちょうせき)」といいます。

潮汐が発生する主な原因は、月が地球に及ぼす引力と、地球が月と地球の共通の重心の周りを回転することで生じる遠心力を合わせた「起潮力(潮の干満を起こす力)」です。

地球と太陽との間でも、同じ理由でやや小さい起潮力が生じます。起潮力は地球を引き伸ばすように働くと、潮位の高いところと低いところができます。

潮位が上がりきった状態が「満潮」、反対に下がりきった状態が「干潮」です。

地球は1日に1回自転するので、多くの場所では1日に2回の満潮と干潮を迎えることになります。

また、月が地球の周りを約1か月の周期で公転しているために、満潮と干潮の時刻は毎日約50分ずつ遅れます。 さらに、満潮時と干潮時の潮位やそれらの差も、毎日変化しています。

地球に対して月と太陽が直線上に重なるとき、月と太陽による起潮力の方向が重なるため、1日の満潮と干潮の潮位差が大きくなります。 この時期を「大潮(おおしお)」といいます。

月と太陽が互いに直角方向にずれているときは、起潮力の方向も直角にずれて、互いに力を打ち消す形となるため、満干潮の潮位差は最も小さくなります。この時期を「小潮(こしお)」といいます。

起潮力や大潮・小潮発生のイメージ図は下図のとおりです。
 

 潮汐の仕組み模式図(気象庁ホームページより)

台風による高潮のメカニズム

台風や発達した低気圧が通過するとき、潮位が大きく上昇することがあり、これを「高潮(たかしお)」といいます。高潮は、主に以下の2つのことが原因となって発生します。

吸い上げ効台風や低気圧が接近して気圧が低くなると、海面が吸い上げられるように上昇します。これを「吸い上げ効果」といい、気圧が1hPa(ヘクトパスカル)下がると、潮位は約1cm上昇すると言われています。

例えば、それまで1000hPaだったところへ中心気圧950hPaの台風が来れば、台風の中心付近では海面は約50cm高くなります。

台風や低気圧に伴う強い風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せられ、海岸付近の海面が上昇します。これを「吹き寄せ効果」といい、この効果による潮位の上昇は風速の2乗に比例し、風速が2倍になれば海面上昇は4倍になります。

また、遠浅の海や、風が吹いてくる方向に開いた湾の場合、地形が海面上昇を増大させるように働き、特に潮位が高くなります。また、満潮と高潮が重なると、潮位がいっそう上昇して大きな災害が発生しやすくなります。
 

高潮と高波の模式図(気象庁ホームページより)

高潮による災害

台風によって発生する災害には、風害、水害、高潮害、波浪害などがあります。これらは単独で発生するだけではなく、複合して発生し大きな被害となることがあります。

ここでは、顕著な高潮による災害の例として、2018年(平成30年)台風第21号による災害を紹介します。

台風第21号は、2018年(平成30年)9月4日12時前に非常に強い勢力を維持したまま徳島県南部に上陸し、その後、4日14時前には神戸市付近に再上陸し、速度を上げながら西日本を縦断しました 。 
 
2018年(平成30年)9月4日の各地の最高潮位及び潮位の推移
(大阪管区気象台災害時自然現象報告書2019年第1号より)

下図は、9月4日の神戸地方気象台における気圧と風、神戸検潮所の潮位の観測値を示しています。

潮位は、台風の接近に伴い気圧の下降が顕著になってきた12時頃から急速に上昇しだし、最低気圧や最大瞬間風速を観測後、風向が南寄りに変わった直後に過去の最高潮位を超える潮位を観測しています。
 
2018年(平成30年)9月4日の神戸での気圧と風及び神戸検潮所の潮位の観測値
(2018年(平成30年)9月4日に発生した台風第21号による大阪湾の高潮に関する現地調査報告
大阪管区気象台、神戸地方気象台より)


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