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最終更新日:2024年9月30日
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この間の晩も、幸子が何気なしに台所の前の廊下を通ると、そこの障子が半開きになっており、風呂の焚き口から風呂場へ通じる潜り戸がまた五六寸開いていて、湯に漬かっている妙子の肩から上の姿が、隙間からちらちら見えるので、
「ちょっとお春どん、風呂場のあそこ締めなさい」
と命じたが、お春がそこを締めに行くと、
「いかんいかん、締めたらいかん」
と妙子が湯漕の中から怒鳴った。
「おや、ここは開けとくのでございますか」
「そうやねん、うち、ラジオ聴くのんでわざと開けとくねん」(中巻24章)
谷崎潤一郎が使っていた風呂をそのまま、後に住んだ児山さんが使っていた。ガスにせず薪(まき)や紙くずを使って焚いていたおかげで、五右衛門風呂は残った。作品では引用のように、妙子が風呂に入るシーンで、扉を少しずつ開けてラジオの音が聞けるようにしている。この何げないしぐさで妙子が板倉と付き合いだして品格が落ちてきた、と幸子や雪子に思わせる場面である。