川西英さんが描いた神戸百景は、戦後の混乱期から立ち上がった神戸、そして、高度経済成長期へと襷(たすき)を渡そうとする神戸、これをストレートに表現した作品です。2010年11月に公開されたコンテンツ『川西英・神戸百景〜百の風景をたどる旅〜』では、川西英さんが残した百の情景を探し求め、追いかけてきました。これまでのアクセス件数は13万件(2012年5月現在)と、たいへん多くの方に見ていただき、改めて神戸百景の人気の高さに驚かされています。

このたび、神戸百景の発行に携われた森本泰好さんより、百景の試刷りと川西英さんが百景をスケッチしている姿が記録されたネガフイルムが神戸市に寄贈されました。このネガフイルムの出現は、原画の残らない戦後の神戸百景にとって、その誕生のルーツを解き明かす上で、大きな力を与えてくれました。そして発行責任者でもあった森本さんから生の声をお聞きすることで、今回、その続編ともなる『川西英・神戸百景〜誕生の秘密をめぐる旅〜』をみなさんに見ていただくことになりました。ここでは寄贈されたフイルムの写真一枚一枚を検証し、神戸百景から惜しくも漏れた作品などを振り返って、神戸百景の誕生した背景をひも解いていきます。

わたしの中には、川西英さんほど神戸を愛し、神戸を描いた作家はいないのではないかとの想いがあります。ふだん、わたしたちが何げなく暮らしている神戸の街を、川西英さんの神戸百景を通し、見て感じることで、今まで知らなかった歴史の一端を思い起こしてくれることでしょう。それでは、神戸が生んだ木版画家川西英さん、そして彼の作品『神戸百景』の秘密の扉を、みなさんといっしょに開いてみることにします。

〜百景の旅人〜 喜多孝行