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フレイル患者の新しい血液マーカーを発見 白血球の今まで知られていなかった仕組みが判明

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記者資料提供(2025年6月11日)
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構

 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(理事長:成宮周)に所属する先端医療研究センター脳循環代謝研究部の田口明彦部長らの研究グループは、ドイツ・フラウンホーファー研究機構、神戸大学らとの共同研究により、フレイル患者(*1)の新しい血液マーカーを発見するとともに、白血球(*2)の今まで知られていなかった役割を明らかにしました。その成果が国際学術誌「Aging」に2025年5月末にオンライン掲載されましたので、お知らせします。
 今回の研究では、高齢者20名(平均年齢78.3歳)の血液検査の結果とフレイル健診で用いられている「後期高齢者の質問票」との相関を分析し、さらに、それらが相関する理由を明らかにするためのマウス動物実験を行い、次の3点が明らかになりました。
①フレイル症状を呈している高齢者に対する血液検査において、白血球のエネルギー代謝(*3)に関連する複数の遺伝子の発現が増加していた。
②フレイル予防に効果がある定期的な運動を行っている高齢者に対する血液検査において、白血球のエネルギー代謝に関連する複数の遺伝子の発現が低下していた。
③マウスを用いた実験により、末梢血中を循環している白血球は、血管内皮細胞や組織幹細胞(*4)に、ギャップ結合(*5)を介して水溶性低分子(*6)を直接供与しているという白血球の今までに知られていなかった役割が判明した。
 これらの結果より、①フレイルを血液検査で診断できる可能性、②運動などフレイル予防や改善の効果を血液検査で評価できる可能性、③白血球には今まで知られていなかった役割がある可能性を見出しました。
 今後は、より多くの高齢者に対して血液検査を行うことにより、フレイルを含む様々な加齢関連疾患に対する検査法としての確立・普及を目指していきます。
 また、白血球が、ギャップ結合を介して血管内皮細胞や組織幹細胞に物質を供与していることに関する発見は、高齢者における慢性炎症(*7)の制御に大きな進展をもたらす可能性が期待されます。
 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ムーンショット型研究開発事業「認知症克服に向けた脳のレジリエンスを支えるリザバー機能とその増強法の開発研究(JP24zf0127010)」の支援を受けて実施しました。

用語解説

*1  フレイル:ロコモティブシンドロームとも呼ばれ、加齢とともに筋肉などの衰えなどが進んでいく病態。2020年4月からの健診で、後期高齢者を対象に要介護のリスクがあるかどうかをチェックする「後期高齢者の質問票」が導入されており、本研究においてもこの質問票を用いてフレイル評価を行った。フレイルは要介護の主要な原因の一つであり、フレイルの病態を反映する血液検査や、筋肉の機能を回復させる治療法の確立が、高齢化社会での重要な課題となっています。

*2 白血球:感染防御のための免疫や炎症を担当するとされてきた細胞。骨髄で造血幹細胞から作られ、末梢血中には1マイクロリットルあたり約5000個存在する。今まで免疫や炎症以外の生理的な役割は、知られていなかった。

*3 エネルギー代謝:細胞はグルコース等の栄養源を細胞内に取り込み、遺伝子から作られる酵素がそれらを分解することにより、エネルギーを産生している。今回の研究では、採血で得られた白血球を用いて、エネルギーを産生するための遺伝子群の発現レベルと、フレイル症状との相関が明らかになった。

*4 組織幹細胞:筋肉には筋芽細胞(筋衛星細胞)、骨には骨芽細胞、脳には神経幹細胞と呼ばれる幹細胞が存在する。それらの細胞が分化・成熟して筋細胞・骨細胞・神経細胞になることにより、組織の機能が維持されている。加齢に伴いこれら組織幹細胞の活性が低下していると考えている。

*5  ギャップ結合:接触する細胞同士をつなぎ、イオンや分子量1500以下の小さい分子[水溶性低分子]を通過させる細胞間結合。細胞の細胞膜にはコネクソンと呼ばれるトンネルのようなタンパク質が存在し、接触する細胞のコネクソン同士がつながると、イオンや小さい分子が隣接細胞の細胞質から細胞質へと濃度勾配に従い直接移動する。

*6 水溶性低分子:細胞の機能維持に必要不可欠な低分子物質であり、細胞の栄養源であるグルコースやアミノ酸なども含まれる。造血幹細胞や間葉系幹細胞を使った再生医療において、ギャップ結合を介した水溶性低分子の授受が重要であることが判明している。

*7 慢性炎症:高齢者では、特に感染などがない状態においても、白血球のエネルギー代謝が活性化し、筋肉や脳などで慢性的な炎症を起こしている。慢性炎症はフレイルや認知症の悪化を促進していると考えられており、高齢者で慢性炎症が起こる原因の解明およびその制御が、重要な課題となっている。今回の結果より、末梢血中を循環している白血球と、血管内皮細胞等とのギャップ結合を介した物質の授受の加齢に伴う変化が、慢性炎症と関連していることが示唆されており、これまでとは違う視点からの慢性炎症制御が可能になると期待されます。

発表者

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公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
先端医療研究センター 脳循環代謝研究部長 田口明彦
【経歴】
1989年 大阪大学医学部卒業
1996年 米国コロンビア大学 博士研究員
2002年 国立循環器病研究センター 脳循環研究室 室長
2011年 10月より現職

論文タイトルと著者

【掲載誌】Aging
【英文タイトル】Changes in metabolism-related RNA expression in circulating white blood cells of aged individual with physical frailty
【タイトル和訳】フレイル患者では、白血球代謝関連遺伝子が上昇している
【著者名】Yuka Okinaka (1), Yoshihito Suda (1,2), Tomoyuki Matsumoto (2), Ryosuke Kuroda (2), Yoshiyuki Shinagawa (1), Sheraz Gul (3), Carsten Claussen (3), Ikuko Matsui (4), Yutaka Matsui (4) and Akihiko Taguchi (1)*
【所属】
1 神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター 脳循環代謝研究部
2 神戸大学医学部 整形外科
3 フラウンホーファー研究機構 トランスレーショナル医療・薬理学研究所
4 まつい栄養&認知症クリニック

公益財団法人神戸医療産業都市推進機構

(URL)https://www.fbri-kobe.org/
FBRI:Foundation for Biomedical Research and Innovation at Kobe
 神戸医療産業都市推進機構(理事長:成宮周)は、阪神・淡路大震災からの創造的復興プロジェクト「神戸医療産業都市」の中核的支援機関および先端医療研究機能を併せ持つ財団法人として2000年3月に設立されました。2018年4月、神戸医療産業都市推進機構へと組織を発展的に改組、「健康長寿社会に向けた課題解決策を神戸から世界へ発信していく」ことを掲げ事業を推進しています。

先端医療研究センター 脳循環代謝研究部

(URL)https://www.fbri-kobe.org/laboratory/research4/
脳を治す医療を日本から世界へ
 脳は一度壊れてしまうと二度と治らない、と長い間考えられてきました。寝たきりの原因第1位は脳卒中、第2位は認知症であり、現状では、脳を治す有効な治療法がありません。しかし、最近の研究では、脳にも再生する能力があること、また脳の再生にはまず脳を支える血管の再生・活性化が必要不可欠であることが判ってきています。我々は、幹細胞や薬剤を用いた効果的な脳血管の再生・活性化に関する研究を行っており、国内外の研究機関や企業と共同で、これらの新しい知見を応用した脳卒中・認知症や老化関連疾患に対する治療法の開発を推進しています。今後は、その成果を実用化することで、脳を治す医療を神戸から世界へ発信していきます。

お問合せ(研究に関すること)

公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
経営企画部 IBRI事業推進課 林
TEL: 078-306-0708  FAX: 078-306-1708
E-mail: kenkyu-fbri(末尾に @fbri.org をつけてください)