神戸の至宝を旅する

神戸が生んだ木版画家・川西英さんは生涯で二度、『神戸百景』と題する連作を手がけています。最初は今回ご紹介する1933年から36年にかけて制作した木版画で、活気あふれる戦前の風景と都市風俗を捉えた作品です。二度目は戦後の変わりゆく風景を描いたポスターカラーによる描画(びょうが)で、1962年に画集『神戸百景』として出版されました。
川西英さんは、1965年に発行された版画集の中で、「わたくしは師匠についたこともなく、独学、自習、画でない画を描いてきた。わたくしなりの途を体得した、いうなればジレッタントである。齢をかこつようになっても童心や新鮮さ、創作性や個性、それに清らかな通俗味や明快さなどを身につけていたい。枯淡などまっぴら、という境地である。(原文のまま引用)」とご自身について語っています。この想いをストレートに表現した作品こそ『神戸百景』であったのではないかと感じています。
私は神戸百景に魅せられ、丸5年をかけ、戦前・戦後に発表された百景のすべてを旅して歩きました。市内に散在する独特な建物や施設をとり入れて、”神戸情緒の幻想”をまとめたという川西英さんのマジックに百景探しの旅は翻弄され続けました。
2014年7月9日、川西英さんの生誕120年になる日を記念して、このコンテンツを公開する運びとなりました。神戸百景の原点とも言うべき木版画の作品に光をあて、戦後の神戸百景へと、どのようにして作者の想いが引き継がれていったのか。そのあたりをみなさまといっしょに確かめていきたいと思っています。
神戸百景とそこに惹きつけられた人々の想いを介して、川西英さんの神戸百景がみなさまの記憶に残る作品となることを願って。
百景の旅人 喜多孝行