川西 英 『神戸百景』 1.みなと
(制作:1952年1月〜53年2月)
川西 英『神戸百景』は、1962(昭和37)年に1,500部の限定で発行されました。この画文集を実際に持っていたり、また、見たことのある人は案外少ないかもしれません。原画を印刷した和紙の作品が一点一点台紙に貼りつけられていて、一景ごとに小磯良平、竹中 郁、辻 久子など今みてもそうそうたる顔ぶれの著名人−100人の随想が寄せられた、この上なくぜいたくな本です。約半世紀を経ても、世代を越えて大切に手元に置かれているもの、あるいはあの震災で失われてしまったものもあるでしょう。
2008(平成20)年11月に、こうべまちづくり会館で2週間にわたって開催された「神戸百景展」には、美術展としては同館始まって以来という約5,500人の人が足を運びました。昭和の古き良き時代の風景と向き合い、思わず、問わず語りを始める人、そこに偶然居合わせた人と話をする人、腕組みをしたまま立ちつくす人…。鮮やかにシンプルに切りとられた懐かしい神戸が、玉手箱のフタを開けて飛び出してきているかのような光景でした。
現在の風景
(撮影:2010年2月)
さて、今回の神戸百景を旅した喜多孝行さんも、どこかで偶然その中の1枚を見て、玉手箱を開けた人です。休日に歩いて、また電車やバスに乗って、川西 英が切り取った百景と同じ角度から見た現在(いま)の神戸をカメラで収めてくださいました。川西 英のセピア色の昭和の空気をはらんだ"風景たち"は、喜多さんの撮った写真と仲良く並んで、語り合っています。
画文集を持っている限られた人だけでなく、このホームページを開けてくださった多くの方たちが、絵と写真との不思議な組み合わせの"おしゃべり"を愉しんでいただけたらいいナ、と思っています。
半世紀ほど前に描かれた“神戸の百の風景”には、変わってしまったものも、
変わらないものもあります。川西 英の視点を追いかけると、
時の流れ、街並みの変化、人々や暮らしの移ろいを実感するとともに、
失われた風景の中にこそ、神戸の歴史、時代の変遷が見えてきます。
気楽にスタートした撮影も、百カ所をめぐるとなると、体力勝負の世界です。
スケッチで歩いて回ったという川西 英さんのフットワークに、改めて驚かされました。
昭和の面影がそのまま残っているところ、震災などで失われてしまったところ、
いろいろな思いを寄せながら歩いた私のおすすめポイントです。
[制作協力]
写真: 井川宏之、 文: 市位佐代、 デザイン・ページ制作: 幸田稔子 池田さくら 近藤真澄 (イメージリンク)