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灘の酒造業
1 在方酒造業地灘
2 日本酒のルーツ
3 江戸積みの酒
4 近世前期の酒造地域
5 近世前期の灘酒造業
6 酒造働人の出稼ぎ
7 灘の江戸積み酒造業の興り
8 摂泉十二郷の成立と天明8年の株改め
9 灘・今津の酒株
10 樽廻船と新酒番船
11 江戸の酒問屋
12 文化文政期の灘酒造業と上灘郷の分裂
13 天保3年の新規株
14 宮水と水屋
15 屋の酒荷物積み出し状況
16 幕末の灘酒造業
17 摂津十二郷の解散
18 酒の自由営業
6 酒造働人の出稼ぎ
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  灘地方から酒造働人(蔵働人)として各地方へ出稼ぎに赴いている人たちが多くいました。酒の仕込み工程に従事する蔵働人は、酒の仕込み期間中酒造家に雇用される杜氏を頭とした集団です。酒どころへ例年定期的に雇用されていた丹波・丹後の蔵人はよく知られていますが、灘地方から蔵働人として出稼ぎをする人たちも多く存在しました。灘が江戸積み酒造業地域のひとつに数えられる以前から酒造業に従事する人たちが多かったであろうことは、兵庫・西宮など隣郷に酒造業の盛んな地が存在したことから容易に伺えます。
  元禄7年(1694)、酒杜氏である深江村次兵衛は借金の返済のため伊予国へ出稼ぎに行っています。次兵衛はこれより前から杜氏としての収入を得ており、借用銀の返済のため伊予国まで出むいたのは、当時すでにこのような出稼ぎルートがあり、そちらのほうがより給銀が高額であったためと考えられます。次兵衛は、西宮あるいは兵庫など摂津の酒どころへ雇用される蔵人として酒造技術を習得していたのでしょう。
  享保期の酒造出稼ぎ人については、尼崎藩領深江村(深江村ほか16カ村)の大庄屋吉兵衛の記録「諸願書控」の中に見ることができますが、その前に灘一帯を支配していた尼崎藩の出稼ぎ者に対する規定をみておきたいと思います。 承応3年(1654)尼崎藩の触れでは、
一、 男女共に他領他国へ奉公または縁付き、また養子に出し申すまじく候、もし隠し置き指し越し申し候はば中間として御注進申し上ぐべく候事
  と、他領他国へ領民が出ることを禁じています。 これが貞享2年(1685)には、  
一、 他所へ差し遣わし候年季男女奉公人季明け在所へ帰り候節はその人を召し連れ代官へ罷り越し相断り、その者相果て候はば親類・庄屋・年寄念を入れ様子聞き届けるべき事
  と、他所奉公が認められています。 翌年の正徳2年(1712)には、
一、 男女奉公人他所へ出候儀半季たりといふとも堅く停止せしめ、もしよんどころなき子細あるにおいては支配人へ相達し指図に任せるべき事
  と、原則的には禁止しているものの、場合によっては許可されていました。  
  そこで、享保5、6年(1720、21)の深江組大庄屋吉兵衛の他国奉公人の記録をみると、表−3のように、讃岐国観音寺はじめ四国、紀州、和州、参州、また秋田などへ蔵人として赴く者、あるいは摂津の酒造家の江戸出店へ奉公する者などがいます。
  この後も酒造出稼ぎ人は多く、寛政4年(1792)には中尾村の9人が紀伊方面を主として酒造出稼ぎをしており、このころ打出村から毎年10人、20人が杜氏として山城・近江・河内・和泉・若狭・紀伊をはじめ、遠くは武蔵・下総・常陸にまで出向いています。小路村においても、西宮の酒造家に雇用されていた杜氏が、その出店の総州にまで行っていたことがわかります。

表−3 享保5・6(1720・1721)年の深江組酒造稼人状況
(「永田家文書」諸願書控より作成)
出願日 村名 名前 年齢 (才) 出稼ぎ先 備考
5年正月 打出 平四郎 27 江戸本船町千足甚左衛門方 酒商売上下
2.3 田中 勘四郎 30 大坂 享保2年大坂へ酒屋稼ぎに、その後江
5.23 芦屋 九左衛門   讃岐国観音寺 酒杜氏稼ぎより帰村届け
  芦屋 助七   伊予国松山 酒杜氏稼ぎより帰村届け
7.26 芦屋 弥兵衛 59 大和国桜井 酒杜氏
  芦屋 助七 60 伊予国松山 酒杜氏
  芦屋 九左衛門 55 讃岐国観音寺 酒杜氏
  芦屋 惣助 31 讃岐国観音寺 酒杜氏(惣助は九左衛門弟)
  芦屋 清十郎 40 江戸深川 酒杜氏
8月 北畑 九左衛門   土佐国宿毛 酒杜氏
  田中 惣左衛門 26 土佐国中村 酒杜氏
9月 打出 又右衛門 46 三河国とろ村 酒杜氏
  東青木 彦四郎 25 江戸中橋岸田屋次郎兵衛店 酒商売上下
  東青木 源蔵 18 江戸中橋岸田屋次郎兵衛店 酒商売上下
  東青木 半四郎 27 大和国郡山 酒杜氏
  東青木 甚助 34 伊予国大洲 酒杜氏
6年4.29 田辺 庄九郎   土佐国久礼 酒杜氏稼ぎより当月帰村
  田中 惣左衛門   土佐国中村 酒杜氏稼ぎより当月帰村
閏7月 田中 惣左衛門 27 土佐国中村 酒杜氏
閏7.19 小路 甚太郎 29 紀伊国日高郡 酒杜氏
閏7.19 打出 市助 47 三河国とろ村 酒杜氏
8月 芦屋 弥三衛門 60 大和国桜井 酒杜氏
  芦屋 助七 61 伊予国松山 酒杜氏
  芦屋 九左衛門 57 讃岐国観音寺 酒杜氏
  芦屋 惣助 32 讃岐国観音寺 酒杜氏
8.27 野寄 半兵衛   奥羽国秋田 六年前より酒杜氏、当月帰村