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灘の酒造業
1 在方酒造業地灘
2 日本酒のルーツ
3 江戸積みの酒
4 近世前期の酒造地域
5 近世前期の灘酒造業
6 酒造働人の出稼ぎ
7 灘の江戸積み酒造業の興り
8 摂泉十二郷の成立と天明8年の株改め
9 灘・今津の酒株
10 樽廻船と新酒番船
11 江戸の酒問屋
12 文化文政期の灘酒造業と上灘郷の分裂
13 天保3年の新規株
14 宮水と水屋
15 屋の酒荷物積み出し状況
16 幕末の灘酒造業
17 摂津十二郷の解散
18 酒の自由営業
12 文化文政期の灘酒造業と上灘郷の分裂
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  寛政期締め付けのきつかった酒造業も次第に規制が緩和されました。文化期には諸国豊作が続き、享保期のような米価の下落傾向を来し始めました。ふたたび幕府は米価引き上げ策として行った諸々の政策の一つとして、文化3年(1806)9月に勝手造り令を触れ出しました。
一、 近来米価下値にて世上一同難儀の趣に相聞こえ候、右体米穀沢山の時節につき、 諸国酒造人共は申すに及ばず、休株(休業)の者共、その外これまで渡世につかまつらぬ者にても勝手次第酒造渡世致すべく候、もちろん酒造高これまでの 定高にかかわらず仕込み相稼ぎ申すべく候
  つまり、天明8年に行われた酒株改めで定められた酒株高にかかわらず、また、これまで酒造をしていなかった者も、誰でもいくらでも酒造をしてよろしいというものです。これによって、この時期、江戸へ送り込まれる酒は年間100万樽前後にのぼり、ことに灘酒造業は飛躍的な発展をみせています。
  江戸に送られた酒を地域別にみると、表−6に示したように、灘酒の割合は、享和3年(1803)42パーセント(全体でおよそ95万8000樽)、文化2年(1805)43パーセント(同96万3000樽)、文化14年51パーセント(同101万5000樽)、文政4年(1833)57パーセント(同122万4000樽)と、摂泉十二郷ほか三河・美濃他より江戸積みされる酒のおよそ半分が灘の酒です。摂泉十二郷の他に江戸積み酒造業の産地として山城・河内・伊勢・尾張・三河・美濃・紀伊・播磨・丹波などが揚げられますが、文化文政期の江戸入津高をみると、およそ90パーセントが摂泉十二郷から送り出されています。
酒造風景
酒造風景
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  当時の江戸の人口がおよそ100万と推定されています。そこに毎年100万樽(4斗樽)の酒が送られたわけですから、江戸では供給過剰の状態となり、必然的に酒価の暴落をもたらし、灘酒の相場が、普通10駄(20樽)が15〜20両程のところ、この時期4〜6両という惨たんたる状態です。他郷の酒についても同じことがいえます。このような事態に直面し、十二郷酒造仲間は自己防衛として自主的な減醸を図らなければなりませんでした。十二郷内部では、灘郷と他郷の競争・対立が激化し、しかも幕府の発した勝手造り令に違背する減醸の申し合わせですので、酒造家のなかには逮捕者が出るようなこともありました。
  江戸入津酒高の50パーセント前後を送り込む灘酒造業においてもまた内部の競争が激しく、利害の対立が表面化し、文政11年(1828)には、上灘郷が、「東組」(青木・魚崎・打出・深江・芦屋・住吉)、「中組」(御影・石屋・東明・八幡)、「西組」(新在家・大石・岩屋・稗田・河原・五毛)に分裂しました。
  御影・東明二ヶ村をただ難儀に相成るようの工夫ばかり致し、二月五日大坂集合の上諸郷へ聞かせ、御影・東明の制覇を潰し腹いせに、上灘郷も全く大郷の事ゆえ三つ別れ、青木・魚崎・呉田三ケ村東組と唱え、御影・石屋・東明・八幡を中組と唱え、新在家・大石西組と唱え、何れ三つ別れ、この席より江戸へ文通致すと申し募られ…(本加納家文書)
  上昇傾向の御影・東明村と、それを牽制しようとする上灘内の他村との激しい対立からの分裂だったことがわかります。
  以後、上灘郷が分裂した東組・中組・西組の3組に下灘郷・今津郷を加え近世の灘五郷と称しました。

表−6 享和・文化・文政期の江戸入津高の変遷
(『伊丹市史』第二巻より)
地域 享和3年(1803) 文化2年(1805) 文化14年 文政4年(1821)
樽数(樽) 比率(%) 樽数(樽) 比率(%) 樽数(樽) 比率(%) 樽数 比率(%)
伊丹 182148 19.0 220224 22.9 182804 18.0 194551 15.9
西宮 104371 10.9 102243 10.6 69028 6.8 80601 6.6
池田 43182 405 34824 3.6 33711 3.3 33936 2.8
尼崎 12400 1.3 10486 1.1 2758 0.3 1086 0.1
大坂 25291 2.6 22421 2.3 41932 4.1 41950 3.4
伝法 6091 0.6 5046 0.5 12779 1.3 38950 3.2
9553 1.0 3267 0.3 9919 1.0 3079 0.3
灘自 403287 42.1 417541 43.4 517149 51.0 681103 55.6
今津 45734 4.8 51345 5.3 23507 2.3 38984 3.2
北在 25023 2.6 15113 1.6 23812 2.3 21834 1.8
兵庫 - - - - - - - -
小計 857080 89.5 882510 91.4 917400 90.4 1136074 92.8
その他 100855 10.5 80462 8.4 97567 9.6 88409 7.2
957935 100.0 962972 100.0 1014967 100.0 1224483 100.0