解題 |
全996点。江戸時代後期〜明治20年ごろの文書群である。井上家は屋号を日向屋と称し、兵庫西出町で絞油業・廻船問屋を営んでいた豪商で、江戸時代は町年寄、さらに近代に入ってからは副戸長・戸長などの役職を務めた。
同文書群は、このような絞油業関係・廻船問屋関係の文書が中心であり、兵庫津における絞油業・廻船業の実態を知る上では貴重な史料群であるといえよう。
特に井上家が江戸時代後期から明治にかけて、兵庫の発展をささえた北前船経営をおこなっていたことは注目できる。北前船は、西廻り航路を経由して日本海を航行した買積船(船頭が自己の才覚で商品を調達、遠隔地の価格差において商業利潤を得るという商業形態をとっていた廻船)のことである。井上家では文化・文政期には正吉丸・正徳丸・妙栄丸などの船を所持し、蝦夷地との交易のほか、酒や油などの江戸積みなどもおこなっていた。さらに近代に入って、西洋型風帆船歓晃丸を買い入れるなど、家業拡大につとめた。
一方の井上家のもうひとつの家業である絞油業も西摂津地域における主要産業のひとつであった。同家は芦屋村に水車を所持していた。
同文書群では他に、町方関係文書、井上家にあてられた田畑や屋敷の質入証文、借家請け状、金銀貸借証文などとともに貸借に関する訴訟文書、書翰、旅行記、先祖法要・婚礼の記録、三味線の免状・茶道の道具相伝状などがある。さらに明治6年(1873)から7年にかけて兵庫にある真光寺の住職招致運動をおこなっていたことがわかる一連の文書群も含まれており、興味深い。平成3年度に寄贈された。 |