ホーム > 市政情報 > 記者発表資料 > 記者発表2023年2月 > 網膜壊死を伴う「ぶどう膜炎」における世界初の症例報告について
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記者資料提供(2023年2月10日)
企画調整局 医療・新産業本部 医療産業都市部調査課
網膜壊死を伴う「ぶどう膜炎※1」に関する原因ウイルスとしては、そのほとんどがヘルペスウイルス属によるものと考えられてきましたが、この度、新たな原因ウイルスとして、ヒトアデノウイルスが同定されました。今回の発見により、新しい疾患概念の報告と治療開発へ取り組むことが可能となるため、本症例の概要についてお知らせいたします。
※1:「ぶどう膜」とは、眼の中にある「虹彩」「毛様体」「脈絡膜」の3つの組織を併せた名称であり、ぶどう膜の一部あるいは全部に炎症が起こる病気を総称して「ぶどう膜炎」と呼ぶ。感染や免疫異常により引き起こされる疾患で、視力低下や眼痛などの症状があり、抗菌薬や抗炎症薬での治療が基本とされている。杉田 直(神戸市立神戸アイセンター病院 医師)
北市 伸義(北海道医療大学病院 病院長)
渡邉 日出海(北海道大学大学院情報科学研究院バイオインフォマティクス分野 教授)
臼井 嘉彦 (東京医科大学臨床医学系眼科学分野 准教授)
網膜壊死を伴う「ぶどう膜炎」は、視力低下や失明の原因となり、患者の不可逆的QOV(Quality of Vision: 視覚の質) 低下をもたらす疾患です。このぶどう膜炎の原因としていくつかの病原体や疾患が知られていますが、ほとんどがヘルペスウイルス属によるものと考えられてきました。今回、世界初となるヒトアデノウイルス感染による網膜壊死を伴うぶどう膜炎の症例2件を報告します。
今回の報告症例では、PCR検査で、眼内液からヒトアデノウイルスが検出されていました。ウイルスのゲノム解析では、症例1からは臨床報告が稀なC種6型、症例2からはD種の新型が検出されました。これまでぶどう膜炎全体のうちの約4割で原因不明とされていましたが、アデノウイルス感染によるものが含まれていた可能性があります。
この2件の症例におけるアデノウイルスの感染経路や網膜炎症発生機序は未解明ですが、今回の発見は、適切な治療法の選択や網膜壊死を伴うぶどう膜炎の理解への貢献が期待されます。
なお、本研究成果は、2023年2月2日に、国際学術誌「Ophthalmology」に掲載されました。
▲症例1の初診時の右眼所見。眼底の一部に出血が認められた。視力は1.2。
▲2ヶ月後、眼底出血が全体に広がり、網膜炎(黄白色の病巣=網膜壊死)が増悪した。視力は0.1まで低下した。
神戸市立神戸アイセンター病院事務局
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