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更新日:2019年11月1日

ごろごろ、神戸3「第9回 海の家、20号、21号」

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折れ曲がったフェンス

メリケンパークとハーバーランドの中間地点、遊覧船が発着する中突堤中央ターミナルに行くと、何をどうすればこんなになるのかというくらいに、岸壁のフェンスが折れ曲がっている。被害を受けているのは一部の箇所だけで、遊覧船乗り場やフェンスの他の部分は通常通りなので、おそらくこれは被害を受けたフェンスの下に係留されていた屋形船が台風20号の暴風で舞い上がり、なんども衝突した跡ではないだろうか。屋形船は大破していた。
買い物に行く先の肉屋さんは店を守るシャッターが丸ごと吹き飛ばされてしまい、8月末で営業を終える事が決まっていた50年以上の歴史がある老舗喫茶店は、閉店1週間前にして外壁が大きく崩れ落ちた。
神戸にいると海や山が近いからか台風の被害をずいぶんと身近に、目に見える形で感じるようになった気がする。

サンドイッチとかき氷

10年ほど前のこと、東京で引っ越し作業員のアルバイトをしていた時に、ゴミとして出されていたスケートボードを持ち主に譲ってもらった。それは私にとって、乗るのも手にするのも初めてのスケボーだった。
昼間は人がいるから恥ずかしく、深夜に町に出て1人で練習していると、ある日道路の向こうからいかにもベテランスケーターといった雰囲気の若者が颯爽とこちらに走って来て、「いつもここでやってるんですか?」と明るく親しげに話しかけられる。私は他人と日常会話をする事にも慣れておらず、とつぜんのことに身構えてしまった。

「いえ、これもらったんですけど……僕すべれなくて……」
「関係ないっす。ちょっとそれ見せてもらっていいっすか」
「ああ……どうぞ……」
若者はそうして私のボードの先を持ち、地面に置くか置かないかのタイミングで忍者のように飛び乗るやいなや
「うわ、これは駄目っすねえ!相当ワルいっす」
と大笑いした。そして「ちょっとうち、すぐ近所なんで来ませんか」
と家の前まで案内してくれて、彼は部屋から工具箱やら何やらを出してくると私の「ワルい」スケボーを熱心に調整し始めたのだ。
「これでだいぶ走りやすくなってます。じゃあ続き行きましょ」

そんな経験があって以来私は、公園や路上でスケボーをやっている若者を見るとあの時の彼のことを思い出して一方的に親しみを感じるようになってしまった。

自分が普段接することのない層に対して、いたずらに敵意を向けるのではなく、ちょっとした勇気やふとしたきっかけで彼らの空間に入ってみると、案外そこは優しい場所だったりする。

おにぎり

ビール

夏の間に海岸に立ち並ぶ海の家も、そんな感じかもしれないなと思う。
あれはお盆が始まるあたりだったか。子供を連れて海辺を散歩していると若い店員に声をかけられて、なぜかその日に限って気が向いたので言われるままに入ってみたら、そこがベビーカーを押す私たちに対して圧倒的にやさしくて、軽いショックを受けたのだ。ちょうど数日前、ある公共空間で子供の遊び声に対し、突き放すような苦情を言われ、その場所を出て行かざるをえなくなったというしんどい体験があったからだろうか。
「大丈夫ですか?俺らそれ(ベビーカー)持ちますよ」
その時、彼ら彼女らのまっすぐな優しさが、ただただ染みた。

店員は男の子であれ女の子であれ、はしゃぐ子供に対して笑顔でざっくばらんに接してくれる。それは店にいる客たちも同じで、私がずっと敬遠していた海の家の騒がしい雰囲気や音楽、若者たちの笑い声が、いざ子供を連れて中に入ってみると、この上ない安心感となった。あれほど悪態をつき続けた海の家で無条件に受け入れられて、救われた気持ちになるとは夢にも思わなかったのだ。

そんな出来事があって、今年の夏は四十を過ぎて生まれて初めて「海の家ってええなあ……」と思い、一度そう思うと凝り始め翌日からは全店制覇を目標に毎日のように海の家参りをしていたのだが、8月23日~24日。冒頭に書いたように台風20号がやって来て、浜辺は1日にして荒れ果て、海水浴シーズンのにぎわいを吹き飛ばしてしまう。

大量の危険な漂流ゴミ

一夜明けて海岸に行くと、美しかった砂浜は大量の危険な漂流ゴミであふれ、数日前に行った店は屋根ごとひしゃげてしまっていた。

それでも店員たちは遊歩道を清掃し、多くの海の家は被害を受けながらも修繕をし、営業を再開しようとしている。

遊泳禁止が発表されて客足の少なくなった海水浴場で、がんばれがんばれと思いながら、それからも私は変わらずに海の家に通い、普段の生活ではまず接触しないような日に焼けた店員と、ひまそうな店の中で話をする。
いやあ、大変ですよ。さっきもせっかくブルーシートで補修したのにそれがまた風で飛んでいって。終わりまであと少しなんでがんばるしかないですねー。お客さんなんて全然来ないですよ。ハハハ。

飲み屋街

二十代三十代の頃は、大阪の京橋という町の、路地裏に並ぶ立ち飲み屋街が大好きだった。
この町で酒を飲む事が、酒を飲む金がない時でもただ路地を歩くだけで、心が満たされたのだ。

台風後の人通りの少ない浜辺をほろ酔いで歩き、立ち並ぶ海の家をぼんやりと眺めていた時に、なぜか私は京橋の裏路地を思い出したのだ。海の家とは、夏にだけ海岸に出現する蜃気楼のような飲み屋街なのかもしれないと思った。
今年もたくさんのかき氷を食べ、ビールを飲み、夏が終わって行く。
私はもう海の家の魅力を知ってしまったから、来年もきっとこの場所にいるのだろう。

かき氷とレモネード

ここからは、撮りためた海の家の料理やビール、かき氷の写真をありったけ並べてしめくくろうと思っていたのだが、きのう来て、去ったばかりの台風21号の被害の全容がまだわかっていない。前日歩いたばかりの場所は、ものものしく防潮堤が閉められて、海からの水があふれ出し町や道路は膝上までの浸水となった。
SNSやニュース映像からは、様々な場所の被害状況が現在進行形で伝わってくる。
正直なところ、今日はどのような顔でここを更新してよいのか、わからないのだ。

文と写真 平民金子

写真を撮ったり文章を書いたりしています。1975年生。東京か大阪かメキシコにいましたが、現在は神戸在住。

神戸市広報課より

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