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更新日:2019年11月1日

ごろごろ、神戸2「第46回 モトコーにあった中華料理屋の話」

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料理のサンプル

元町高架下(モトコー)3番街の中華料理屋「梨園」が3月末で閉店となった。モトコーはいま再開発の話が大きく動き出したところで、あちらこちらの店舗で移転や閉店が続いている。神戸といえば高架下商店街、そんなイメージが私にもあり、引っ越して来たころはまだ子供もいなかったので散歩がてらよく歩いた。なんとなくだけれど、神戸駅側(7~4番街)は静かで元町駅側(1~3番街)はにぎやか、そんな印象で、いつも7番街から入っていた私には、ひっそりとした通りを歩いて3番街の入口すぐにある「ラーメン450円」と大きく書かれた梨園の看板が、神戸と元町の境目に立つ道標のように思えた。

ラーメン屋の看板

店の年輪を感じさせる入口の古びたサンプルと、外国からの観光客を意識して書かれた英語と日本語併記のメニューを見ると、「これは素通り出来へんやろ」という気持ちになって引き戸を開けたのが最初。店内はテーブルとカウンターがあるがいつも1人だったのでテーブル席には座ったことがない。最初の頃は肉たまご飯とエビたまご飯をよく注文していた。だって「たまごめし」って響きだけで注文したくなるでしょ。にくたまごめし、えびたまごめし。どちらも声に出して一日中でも唱えていたい日本語だ。

たまごめし

料理の味とは、舌先だけで判断されるものではない。店がまえや中に入った雰囲気、店主の風貌、居心地、そういったトータルな部分で判断されるものだ。そういう意味で梨園はこのあたりで屈指の名店だった。すげえから絶対に行かなアカンで、というたぐいの派手さはなく、「なんかエエ感じやなあ」というくらいのほどよい湯加減の店なのだ。オヤジの機嫌や体調によって見た目や味が細かく変化する、そんな町の中華料理屋の味のグラデーションは、いつ注文しても誰が作っても同じクオリティの物が出てくるチェーン店では味わえない。餃子の焼きむらを見るだけで「ええなあ…」と色気を感じてしまう。

餃子

子供が生まれてからはモトコーを歩くことが少なくなって訪問する回数は減ったけれど、豚足ラーメンだけはたまに食べに行った。あっさりしたスープにやわらかい豚足と小ネギが乗せられた究極のシンプルさ。注文すると骨を入れる銀のガラケースを添えてくれる。これがまた特別感があって良かった。容器にコトンコトンと骨を落としていく所作を目当てに注文していたといってもよい。子供のころに聞いた台所から響くまな板と包丁の音のように、料理は味だけではなく、たとえばこのような小さな音の記憶でもある。

豚足ラーメン

モトコーが近い将来どうなっているのかはわからないけれど、再開発にいよいよ本腰が入った感のある現在、それほど遠くない未来には現在の風景はすっかり様変わりしている事は間違いないだろう。古い商店街や建物は生活の場であると同時に歴史的な遺産でもあるから、いつまでも大切に修繕しながら残してほしい。私はそのような考えの持ち主だけれど、それはあくまでも私個人の考えであって、人口100万人を超える町の総意ではない。人がおらんでも、シャッターが降りていても、その建物だけでも残っていてくれたらありがたいがな。自分のそんな極端な考えは「町の発展」という大きな流れを前にすればあっけなく吹き飛んでしまう。

あんかけ

営業最終日の前日だったろうか、カウンターで豚足ラーメンをすすっていると、常連さんとの会話が聞こえてくる。移転せえへんの?次どこでやるの?店のおかあさんがしみじみと、もう、やっと解放ですわ。この人(ご主人)も年やからね。というような事をおっしゃっていた。再開発のために志なかばで泣く泣く撤退とかだったらこういう言い方はしないけれど、なんというか何十年も中華鍋をふるってきてこれを機会に納得の上での引退、という事だったら、こちらとしては「ありがとうございました」とただひとこと、感謝するほかない。

ラーメンとチャーハン

普段なら食べ終わったあと「ごちそうさまでした」と言って出るんだけれど、まだ最終日でもないのにその日はなんとなく「おつかれさまでした」と言って店を出て、帰り道、モトコー5…モトコー6…モトコー7…としだいに薄暗くなる通りを歩いていると、さっきお店の中で聞いたばかりの「もう年やから」という声が、元町高架下という建物自体から響いてくる言葉であるような気もした。私はこの商店街に対して、おつかれさまでした、と言えばいいのか、もっと他の言葉をかければいいのか、今もまだ、わからないでいる。

定食

文と写真 平民金子

写真を撮ったり文章を書いたりしています。1975年生。東京か大阪かメキシコにいましたが、現在は神戸在住。

神戸市広報課より

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