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更新日:2019年11月1日

ごろごろ、神戸2「第24回 雨の動物園、台風の夜」

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動物園までの道

雨の日は動物園に行くに限る。
普段ならにぎわっている週末の午後。トラやライオン、ゾウ、パンダといった人気者たちの前にもこんな日は誰もおらず、遊園地エリアに行っても濡れた遊具に乗ってわざわざ遊ぶ人はいない。静かに降る雨の中で、止まったままのメリーゴーランドの前に立ち、ぼんやりと周囲を見回す。
たまに通り過ぎるのは無理矢理子供に引っ張って来られた母親か、私のように、あえてこういう日を選んで来る物好きか。遊園地を出て、気のせいか普段より活動的に、より親しげに近付いてくる動物たちを見ながら、アスファルトを打つ雨音に包まれて園内を歩く。

メリーゴーランド

舟崎克彦『雨の動物園』は、1945年生まれの作者がまだ焼け跡の残る東京で過ごした子供時代、家の庭や空き地で接した鳥やカエル、犬、モグラ、トカゲなど様々な小動物たちの物語だ。私が鮮明におぼえているのはコウモリの章で、今の時代よりももっと身近に空を飛んでいたコウモリは夏の夕暮れ、遊び終わった子供たちの格好の投石のマトとなる(子供の投げる石などコウモリは簡単によけてしまう)。そしてコウモリはコウモリでしたたかに生き、冬になると人間たちの暮らしにまぎれ込む。

 

こんなこともあった。
またしても冬である。ひんやりと底冷えのする勝手口の玄関でげたをつっかけて外へでようとすると、右足のほうがなんとなく重たい。
どろでもつまっているのかとうらがえしてみるとここにもコウモリが――歯と歯のあいだに、まるでげたの一部にでもなりすましたつもりでしっかりとうずくまり、やはりスヤスヤと眠っている。
(舟崎克彦『雨の動物園』)

 

私はこの、下駄の歯と歯の間に挟まって眠るコウモリの話が好きで、ついあんこがたくさんついた俵型のおはぎのような物体をイメージしてしまう。あるいは一貫の、お寿司のような…。

水たまり

物語の舞台となる1950年代は現代のような鳥獣保護法もなく、さまざまな野鳥達が自由に店で売られていたという。
ある時主人公はヒバリの雛(ひな)を買って帰る。まだ飛べないヒバリを部屋の中に放し、自分の後をついてくる様子を愛らしく見つめる少年は、そのころ大切な母親を突然失うという体験をしていた。そして弱々しい雛に亡くなった母親の姿を重ねては、自分がこの存在を守らなければ、と強く思う。同時に、目の前の雛がやがて成長し自由に空を飛べるようになって自分の元から離れてしまう日をおそれるようにもなっていた。

 

「あのな、揚げヒバリいうてな、ヒバリは雲のずっと上まで舞いあがって鳴くものなんや。そしてさえずりおわるとちゃあんともとの場所におりてきよるんやで。」
祖母は私の心配をよそにそんなことをいったが、私にはたいせつなヒバリを空にはなす気などにとてもなれなかった。
(舟崎克彦『雨の動物園』)

 

動物園の入口

ある日少年が学校から家に帰ると、いるはずのヒバリがいない。あわてて部屋の中を探すと座布団のカバーに小さなふくらみがあり、めくるとそこにかくれていた。しかし安心した少年はすぐに、目をぱちくりさせるばかりでまったく動く様子のないヒバリの異変に気付く。座布団から出してやるとその足は、いびつに折れ曲がっていた。部屋の中で放し飼いにされたヒバリは何らかの拍子で座布団のすき間にもぐりこんで、足を折ってしまったのだ。
動物病院も近くにない当時、弱っていく鳥を箱に入れ自転車をこぎ鳥屋さんを訪ねるもその日に限って不在で、相談する相手のいない少年は途方にくれてしまう。その日は枕元に箱を置いて必死に見守るも、翌朝にはさらに息が弱くなっていた。少年はもう、どうする事も出来ず、せめて最後に空に放してやろうと原っぱに行き、息も絶え絶えの小さな命を空高く放り投げてしまう。

観覧車

舞い上がるひばり。あるいは「揚げひばり」と題された有名なクラシック曲を聴くと、私は東京で長い間住んでいた四畳半のアパートで金がなく、消費者金融に行っても金を借りられず、友人に頭を下げて借金をし、どこに行くにも金がかかるので図書館で借りたクラシックCDを寝ころんで聴いていた雨の日を思い出してしまう。俺がいま東京でしがない生活をしているというのは幻で、ここは18世紀のヨーロッパ、俺は金の心配などいらない貴族……などと間抜けな妄想をし、目を閉じてバイオリンの旋律を追いかけ現実逃避していた日。
目を開けるといつもの、天井の木目が見える。
行った事もないイギリスの田園風景を自由に飛び回るバイオリンの旋律と、現実につきまとう東京の、軒を伝う雨音が体を絡ませ、踊っているようだった。

雨で濡れている地面

雨の動物園は、動物たちとの距離が近い。
放養式動物舎に行くと涼風ジョニーの妻であるユキが今日は近くにいて、わざわざ私の目の前に座ってくれた。
9月の敬老の日にはケーキに興味を示さない夫に業を煮やし、そのケーキをすべてたいらげてしまった50歳のユキさん。
あの日、動物舎からあふれ出さんばかりの人混みの中で、皆の背中ごしに遠くから背伸びして見た彼女が今日は誰もいない空間で私だけと向かい合い、そしてガラス越しに私の顔をなでる。
やがて天気は不穏に崩れて、雨脚は徐々に、徐々に強くなって行く。

チンパンジー ジョニー

ジュール・ルナールは『博物誌』の中で、コウモリとは、夜の裾(すそ)がすりきれて、傷んで、破れて、あっちこっちに引っかかってこぼれ落ちた、そんな夜のかけらから生まれると書いた。
そして夜、神戸にもひどい台風がやって来た。
自転車を避難させようと外に出ると体を飛ばされそうな風が吹いており、ひっきりなしに救急車が走り、看板なのか何なのか、巨大なものが地面に落ち、ぶつかる音がする。
窓を閉めても救急車の音、何かがぶつかり合う衝突音が始終聞こえ、船の中にでもいるように部屋が揺れている。
私は眠れぬ夜の中で、この暗闇の中でたくさんの夜の裾があちらこちらに引っかかって、ちぎれて、こぼれ落ち、やがてコウモリたちが生まれるのだと思った。

車内から見える樹木

文と写真 平民金子

写真を撮ったり文章を書いたりしています。1975年生。東京か大阪かメキシコにいましたが、現在は神戸在住。

神戸市広報課より

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(掲載内容は2017年10月25日現在の情報です)

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