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更新日:2019年11月1日

ごろごろ、神戸2「第11回 「あんぱんまん」」

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一番古い記憶は4歳ぐらいの時で、幼稚園が終わってからのバスの送迎で母親が停留所までむかえに来るのが数分遅れた事にひどく腹を立てた、という些細な風景だ。その次に強く残っている記憶が6歳の小学校入学式の時で「隣に座っていたH君が骨折した腕を三角巾で吊っていた」というこれまた些細な風景で、いずれにしても幼少時の記憶というのは断片的にしか残っていない。最初期の記憶がいつなのかというのは人によって異なるが、早くとも3歳くらいではないか。それ以前の風景は「無」である。では、今の私は子供にとって「やがて無になる時代」のために膨大な時間を捧げているのだろうか、そんな事をよく考える。大人がどれだけがんばっても子供たちは、今この時をすべて忘れてしまう。

JR神戸駅からハーバーランドへとつながる地下街(デュオ神戸)の地面にはところどころアンパンマンのキャラクターたちが描かれていて、そこを歩いてエスカレーターで地上に出ると、海へと続くメインストリート(ガス燈通り)には今度はキャラクターたちの石像が置かれている。大人ならそのようなアンパンマンラッシュも無視して通り過ぎる事が出来るが、幼児はそうもいかず、歩き始めたばかりの子供がデュオ神戸の地面に座り込みアンパンマンをさわっている光景やガス燈通りの石像に抱きついている光景はこのあたりの風物詩だ。私の子供もその1人で、生まれたばかりの頃からハーバーランドによく通っていたのでアンパンマンにはとても親しみを持っており、やがてテレビ番組も見始めたせいで気が付けば「あんぱんまん」「あんぱんまん」と毎日そればかり口にしている。「あんぱんまん」は発話のしやすさから「パッパ」「マンマ」と同じように赤ちゃんが最初期におぼえる言葉のひとつなのだ。うちの子供は来る日も来る日も「あんぱんまん」だけで喜怒哀楽のすべての感情を表現していた。

私はこれまで、人間という生き物は赤ちゃんから幼児に、幼児から子供に、子供から若者に、若者から成人老人にと直線的に(連続性を持って)成長していくものだと考えていたが、最近つくづく思うのは、この中では「赤ちゃん」だけが言語を介さない世界で自由気ままに生きており、特別な存在なのではないかということだ。人間が平均寿命どおりに80年生きたとして、そのうちのほとんどは幸か不幸か言語という秩序の元で生きる事になる。赤ちゃんはその秩序の外にいて、混沌とした世界を自由に生きる事が出来る唯一の存在だ。アンパンマン公式サイトのQ&Aコーナーには「(アンパンマンワールドには)ジャムおじさんとバタコさん以外の人間はいますか?」という質問があって、そこには短く「アンパンマンワールドに人間はいません。ジャムおじさんとバタコさんも人間の姿をしていますが、妖精なんです。」と回答がされている。私は今目の前にいる「赤ちゃん」もまた、生まれてほんの数年の間だけ現れてやがて永遠に去っていくアンパンマンワールドの妖精みたいなものじゃないかと思うのだ。

ガス燈通りを海にむかって歩くと、岸壁の手前にアンパンマンミュージアムがある。
見上げた視線の先には、空に浮かぶようにアンパンマンとバイキンマンが描かれている。
ふと、私は想像する。
これから何年かの時間が流れて、町のどこかでアンパンマンのおもちゃを見かけ、なつかしい気分で手にとった私に子供が言う。

「なんでそんなんいつまでも見てんの?はよ行こうや」

私はずっとあの頃のことを、いっぱいいっぱいで毎日をやり過ごしていた日々の事をおぼえている。私の記憶とアンパンマンのキャラクター達は先へ先へと成長する子供から、ぽつんと取り残されてしまったけれど、振り返った先にある日々の記憶はとてもあたたかいものだ。

私は「ごめんごめん」とおもちゃを元の位置に戻して、あの時私たちの生活のすべてだった妖精たちに手をふるのだろう。

アンパンマンミュージアムの外観写真

文と写真 平民金子

写真を撮ったり文章を書いたりしています。1975年生。東京か大阪かメキシコにいましたが、現在は神戸在住。

神戸市広報課より

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