産官学連携による火災実験

最終更新日:2023年8月7日

ここから本文です。

神戸市内の木造アパートで2名の方が亡くなる火災がありました。その火災を調査する中で1つの疑問が生じました。それは「亡くなられた2名の方は,何故逃げ遅れたのか」という事についてです。この疑問を解明するため,産官学が連携して煙と一酸化炭素の流動に着目した火災実験を行いました。

ある疑問~なぜ逃げ遅れたのか~

アパートの各フロアには4戸の居室が1列に並んでいました。火災はA室で発生し,亡くなった2人はA室から1部屋を挟んだC室の居住者でした。2人とも一酸化炭素(以下「CO」)による中毒死でした。

さらに調査していくと,亡くなった2人は煙式住宅用火災警報器(以下「煙式住警器」)が設置されている部屋に住まわれていたのにも関わらず,煙式住警器が鳴る前にCO中毒で動けなくなっていた可能性が非常に高いことが分かりました。

図火災アパートの配置

仮説~煙よりもCOの流動スピードの方が速い?!~

「何故,逃げ遅れたのか」という疑問について「火元から離れたC室で,煙式住警器が鳴動しない程度の薄い煙の中に高濃度のCOが含まれていた」という仮説を立てました。より簡単に表現すると「煙よりもCOの流動スピードの方が速い」ということになります。

そこで,COが火元の部屋から小屋裏を伝って拡散し,2部屋離れた室内で煙式住警器が鳴る前にCO濃度が危険な数値まで上昇する状況があるのか確かめるために,関係機関の協力をいただきつつ再現実験を重ねました。

3年にわたる実証実験

火元から離れた部屋の一酸化炭素と煙の濃度を測定し,仮説どおりの結果が得られるのか様々な実験を行いました。試行錯誤を重ねながら行った燃焼実験は3年にも及びました。ドキュメンタリー風の動画とともにご覧ください。

ドキュメンタリー動画

実験1簡易模型による実験

火災のあったアパートの10分の1模型を作成し実験を行いました。火元から2部屋離れた室内の煙式住警器が鳴った時点で,CO濃度はすでに致死的と言える5,000ppmを超えており,仮説を十分に裏付ける結果が得られました。しかし,簡易模型によるただ1回のみの結果では「実証できた」と言うには不十分だと考えました。

簡易模型による実験

実験2規模を大きくした実験

模型の規模を大きくして実験を行いましたが,火元隣室で煙式住警器が鳴った時点ではCO濃度の上昇は認められませんでした。

規模を大きくした実験

実験3ダクト模型による実験

ダクトを延焼経路の小屋裏,ダクトに繋いだボックスを居室に見立てて煙と一酸化炭素の拡散スピードに差があるのか測定しましたが,火元から離れたボックスでの煙と一酸化炭素の到達に差は認められませんでした。

実験3ダクト模型による実験

実験4厳密な模型による実験

火災のあったアパートを実際に施行した工務店への調査により,アパートをより正確に再現した3分の1の模型を建築して実験を行いましたが,火元から2部屋離れた室内で一酸化炭素濃度が上昇しはじめる約1分前には煙式住警器が鳴動しました。

実験4厳密な模型による実験

実験5厳密な模型を使った再実験

実験4と同じ模型を使用し,家具の配置方法等を変えて実験を行いました。2部屋離れた室内ではまずCO警報器が鳴り始めました。そしてその3分後に煙式住警器が鳴動しましたが,その時点でCO濃度は5500ppm以上とすでに致死的な数値となっていました。規模を大きくした実験でも仮説を十分に裏付ける結果が得られました。

実験5厳密な模型を使った再実験
※実験4・5は,平成29年度消防防災科学技術推進制度(総務省消防庁)に採択され,東京理科大学,矢崎エナジーシステム株式会社と神戸市消防局の産官学連携による共同研究として行いました。

実験からわかったこと

建物の構造や火災時の条件によりますが,火元以外の部屋で煙や炎を確認できない状態でも,すでに致死的な一酸化炭素で満たされている可能性があるという事を考慮した行動をとることが必要です。

火災に気づいて避難することができた後は,不用意に室内に戻ることはせず,自身の安全を第一に行動してください。

火災にいち早く気づくため

火災の早期発見・避難のためには,住警器が非常に有効です。最近の住警器の中には,建物の構造や火災時の条件によっては有効であることが確認された一酸化炭素警報機能や,複数の感知器同士が連動する機能を持つものもあり,今後の住警器購入の際の選択肢のひとつとしてご検討ください。

お問い合わせ先

消防局予防部予防課