第12話 エビラの梅

最終更新日
2009年3月25日

千年も昔のことです。平野に住んでいた生田神社の神主さんが、庭にあったりっぱな梅の木を神社の庭に移し植えたそうです。 この梅は毎年すばらしい花を咲かせました。

「うすべに色の花も、その香りも、実にみごとな梅の木だ。生田の森のたからものだ」

寿永三(一一八四)年二月七日の源平合戦では、西の一の谷とともにこの生田の森が東の戦場になりましたが、それはちょうどこの梅の美しい花が満開の季節でした。

はげしい戦の最中に、馬に乗った一人のりっぱな若ざむらいが、よろいかぶとに身をかためて、この梅の近くを通りかかりました。

よろいかぶとに身をかためた若ざむらいが梅の近くを通りかかったイラスト「おお、みごとな梅だ。何というよい香りだろう。 花のついた枝を一本もらっていこう」さむらいは折り取った枝を、背中に負った矢を入れるエビラにさして、木からはなれていきました。

やがて、近くに一つの井戸を見つけたさむらいは、その水面に背中のエビラに入れた梅の枝を写し、馬からおりて井戸水をくみました。 「この水を生田の神さまにそなえ、戦いの勝利をおいのりしよう」このさむらいは、勇者として知られる梶原景季でした。

戦場にもどって景季がはげしく戦っているうちに、エビラにさした梅の花はいつしか散ってしまっていましたが、 かれのまわりにはいつまでもかんばしい梅の香りがただよい、敵も味方も景季をたたえました。

「勇気だけでなく、物のおもむきを理解するりっぱなさむらいだ」

この時から、生田神社のその梅はエビラの梅、井戸は梶原の井と呼ばれるようになりました。