神戸市街地は、六甲変動と呼ばれる地殻変動によって隆起しつつある六甲山地と、第四紀と呼ばれる約200万年前以降の地質時代に常に沈降している大阪湾との境界部分に位置する。そのため、市街地の表層地盤は山地より供給される扇状地堆積物と、気候変動で起こった海水面の上下作用によって形成された海浜性の堆積物が混じり合って複雑な構成となっている。
以下では、神戸市地盤調査検討委員会が集積した約5000本のボーリング柱状図をもとに構築されたデータベースシステム、神戸JIBANKUNの表層地盤資料に基づいて検討した神戸市街地の地盤構成についてまとめる。
地盤は、道路や建物などのようなすべての構造物を支える基礎である。その基礎となる地盤には、平野部では沖積層や段丘堆積層などがある。ここで沖積層は、土木地質分野でよく使われている定義にしたがって、約2万年前よりも新しい時代に堆積した地層を示している。これは、今までに起こった最後の氷河期で海水面が今よりも100m以上下がったといわれるもっとも寒冷な時期よりも後に形成された地層に対応している。したがって、沖積層基底面の等高線図は約2 万年前の地形面をほぼ復元していることになる。その等高線図を示したものが図-3.1である。ここに表された図では、等高線は現在の地形等高線にほぼ並行しているが、必ずしも一致しているわけではなく、和田岬付近をはじめとして当時の地表面に谷や尾根などのゆるやかな起伏のあることがわかる。その要因としては、その当時における河川の流路や地質構造運動などが関係する可能性が考えられるが、まだ明確な結論は得られていない。
つぎに示している図-3.2はMa12と呼ばれる海成粘土層の上面の等高線図である。この海成粘土層Ma12は、約10万年前に堆積したと考えられている粘土層であり、最後の氷河期よりも、その前に起こった間氷期と呼ばれる温暖な気候の時代に堆積した地層である。つまり、この粘土層が経験した地質時代は、沖積層に比べてはるかに長いため、図に示されるように、沖積層基底面の形に比べて起伏に富み、地盤変動の影響が強く表れているといえる。とくに、和田岬の先端からポートアイランド北部(神戸大橋付近)にかけて、等高線が密となっており、地層が撓んだような、撓曲と呼ばれる構造が表現されており、その構造が和田岬断層によって生じた地質構造である。また、これまでよくわかっていなかった陸域における表層地質構造を、詳しく把握することができた。たとえば、和田岬付近から北北東に延びる尾根や、JR新長田駅付近における東北東方向への湾入部などが表され、いずれも地質構造運動に関係した構造であると思われる。また、ポートアイランド付近の細い起伏なども、かなり詳しく調べれられた。しかし、図を見てわかるように、三宮から住吉川にかけての陸域では、等高線が描かれておらず、この地域での地質に関する詳しい情報が不足していることや、地盤構成の複雑さなどがその原因として挙げられるが、さらに今後の検討が必要であると思われる。
前述したように、神戸市街地は六甲山より供給された扇状地性の粗粒堆積物で覆われており、山地と市街地間の距離が短いため、堆積環境が不安定で、その地盤構成は複雑となっている。ここでは、市街地域の代表的と思われる地域の地質断面図を示し、それら各地域の特徴をまとめて示す。
住吉川の東側を河川に沿って南北に作成した断面である。
海域から埋立地(東部第3・4工区)付近にかけて、沖積粘土層(Ma13)が安定して連続する地域である。粘土層下面の標高は、海から陸にかけて高くなり、その層厚は陸側ほど薄く、15mから5mに変化して次第になくなる。また、沖積粘土層は貝殻混じりの砂層(Asm)に移り変わる様子が示されている。この砂層は海岸部においては、沖積粘土層の上位にあり、約6000年前の縄文時代に起こった縄文海進と呼ばれる海水面の上昇期から、今の海水面に下降していく過程で形成された堆積物であるといえる。この砂層は平坦な地形のところに分布しているが、住吉川の氾濫による堆積物が混じり合っていると考えられる。また、地形が急傾斜となる付近より北側は、おもに礫質の堆積物で構成されており、表層部は沖積層に対応する地層であると考えられるが、その下位層の形成時代は明確でない。
一方、沖積粘土層の下位は、最終氷河期の堆積物が分布し、いわゆる低位段丘相当層(D)と呼ばれる地層に相当する。その土質は、海域においては砂質土が、陸域においては礫質土が多いようであるが、土砂が供給される六甲山地に近いほど堆積物が粗くなっているためと考えられる。低位段丘相当層の下位にはMa12が確認される。Ma12は海から陸にかけて連続して追跡されると考えられ、その層厚は沖積粘土層と同じように、陸域ほど薄くなり、また、その上面の標高は六甲アイランドで−70m付近、下限面が−95〜100m付近にある。
ポートアイランドの東方から摩耶埠頭西部をへて王子公園付近にいたる断面である。
この地域の特徴は、海域における沖積粘土層(Ma13)の分布が狭いことである。すなわち、明治時代の地形図に示されている旧地形の海域においても、沖積粘土層がほとんど堆積していないことである。このような傾向は、神戸市街地の旧地形が示す海岸地域においてまれであり、他の地域では見られていない。この断面図に示されているように、沖積粘土層は摩耶埠頭西部の埠頭埋立地内においてなくなり、それより陸側にはほとんど分布していないことがわかる。したがって、この地質断面図付近における海岸地域は、沖積粘土層が穏やかに堆積するような安定した堆積環境ではなかったことがわかる。つまり、この地域は、諏訪山断層がとおる六甲山地南縁と旧海岸線との間が短く、神戸市街地域の中では、山麓部との間の距離が最も短い地域のひとつであり、かつその地表面が最も急な勾配の地域でもある。したがって、摩耶埠頭付近の海岸地域は、粗粒の土砂が多く堆積する環境であったと考えられる。
三宮付近からポートアイランド(第二期)にいたる断面である。
ポートアイランドの地盤は、表層の埋立土(B)を除いて、上位より沖積粘土層(Ma13)、低位段丘相当層(D)、Ma12の順に成層した構成となっており、沖積粘土層やMa12などの海成粘土層は陸域にかけて薄くなる傾向がはっきりしている。また、沖積粘土層はポートアイランド内では明らかに追跡されるが、陸域においては不明瞭となる。これに対して、その下位のMa12は地層の厚さが減少しながら、JR三ノ宮駅付近まで連続すると考えられる。しかし、神戸大橋付近を境に陸側の分布深度が急に浅くなる傾向にあり、断層の影響による構造が伏在すると推定される。一方、三ノ宮駅付近の表層堆積物は、生田川によって形成された堆積物であり、砂および砂礫質の粗粒堆積物より構成されるが、それらの地層の詳しい形成年代は明らかでない。
和田岬の東端から会下山にいたる断面である。
和田岬付近は、沖積粘土層(Ma13)の上位に砂礫を主体とする礫質土層(Ag)が発達する。この礫層は長径5cm程度の中礫大の円〜亜円礫で構成されており、礫種はチャートが多い。この礫層は、大阪層群の礫層より洗い出されて堆積した地層であると考えられ、和田岬の発達形成に密接に関係する海浜性の堆積物であると推定される。
一方、会下山付近の南側には、軟弱な沖積層に相当する粘土層が表層に分布しており、和田岬を形成した砂州の後背低地の堆積物と考えられる。この沖積層の下位は、大阪層群の地層があると考えられるが、会下山断層やその南側に分布する断層によって、地層の連続性ははっきりとしていない。
神戸市街地中西部の臨海地域をほぼ東西方向に横断する断面図であり、地表面の標高は0〜5mとなっている。
この地質断面図においては、Ma12などの鍵となる地層がかなりはっきりと追跡することができ、地質層序の決定に有力な情報が得られている。それにより、神戸市街地部における沖積層の分布特性や、Ma12の分布を鍵とした地質構造の検討が可能となっている。とくに、Ma12の分布から、摩耶大橋付近や元町付近に撓曲と思われる構造が推定され、地質構造の検討に大切な情報となっている。