回生ブレーキって?

最終更新日
2006年11月8日

物理学の世界には「エネルギー保存則」というのがあります。これは、「エネルギーは、全体として増えもしなければ、減りもしない。エネルギーの形態が変わることはあっても、全体ではいつも同じ量が保存されている。」というものです。エネルギーには、熱エネルギー、電気エネルギー、運動エネルギー等、いろいろな形態がありますが、その総和はいつも一定です。

この観点から見ると、「ブレーキをかけて止まる」ということは、どういうことでしょうか?

ある速度をもって走っている乗り物は「運動エネルギー」というエネルギーを持っています。このエネルギーを何か他のエネルギー形態に変えて、「運動エネルギー」をゼロにしてやること、これがすなわち「ブレーキをかけて停止する」という行為に相当します。

たとえば、走っている自転車にブレーキをかけるとき、車輪のリムにパッドを押さえつけて止めますが、このとき自転車の「運動エネルギー」はリムとパッドの間の「摩擦熱」に形を変えます。すなわち、「運動エネルギー」から「熱エネルギー」にエネルギー形態を変えることで止まります。では、発生した「熱エネルギー」はどうなるかといえば、そのまま空気中に捨てられてしまいます。

電車でも同じで、従来の電車では、圧縮空気の力で車輪に制輪子(パッド)を押しつけるだけで止めていました。

せっかく貴重な「電気エネルギー」を使って加速し、獲得した「運動エネルギー」を、ブレーキで「熱エネルギー」に変えて、最後には捨ててしまうのですから、考えてみれば何とも「もったいない」話です。

そこで開発されたのが、「回生ブレーキ」です。

自動車等と違って幸い電車は駆動用の「電動機(モータ)」を積んでいます。そして都合の良いことに、この「電動機」は基本的に「発電機」と同じ構造なのです。つまり、「電動機」は「発電機」として使うこともできるのです。

であれば、ブレーキをかけたいとき、駆動用電動機を逆に「発電機」として働かせ、「運動エネルギー」を「電気エネルギー」に変えてやっても良いわけです。「電気エネルギー」にすれば、熱エネルギーのように捨てることなく、有効に利用できます。

これが「回生ブレーキ」の考え方です。実際の仕組みは、ブレーキをかけると「電動機」が「発電機」に化け、電気を作り出して架線に返します。返された電気は架線を通して近くを走る他の電車でそのまま使われたり、変電所の「電力回生用インバータ装置」で直流から交流に逆変換され、駅やトンネルの照明等に有効に利用されます。

逆に言えば、他で使用された電気エネルギーの分だけ運動エネルギーを失うのでブレーキがかかるわけです。

この「回生ブレーキ」を使用すると、エネルギーの利用効率が飛躍的に向上します。

神戸市交通局の地下鉄車両は開業当初より全編成に「回生ブレーキ」を備えている上、変電所にも「 電力回生用インバータ装置」を設けており、たとえば西神・山手線の場合、力行電力の実に約40〜50%を回収・再利用しています。つまり、「回生ブレーキ」が無い場合に比べて電気の使用量が約半分になっているのです!

他にも良いことがあります。地下鉄はトンネルの中を走りますが、放っておくと電車から発生する熱がこもり、トンネルの温度は少しずつ上昇してしまいます。「回生ブレーキ」を使えば、ブレーキ時に「捨てる」熱が大幅に減るので、トンネルの温度上昇を抑えることができます。

さらに、「回生ブレーキ」を主に使う分、併用する「空気ブレーキ」の負担も大幅に減少し、制輪子(ブレーキパッド)の摩耗も抑えられ、交換の手間が減ります。

尚、このように良いことずくめの「回生ブレーキ」ですが、発電量が少なくなる停止寸前の低速域など、ある条件下では効きが悪くなります。

そこで、 交通局車両の場合は「回生ブレーキ」だけでなく通常の「空気ブレーキ」も搭載していて併用します。「回生ブレーキ」の不足分を「空気ブレーキ」が補い、全体として一定のブレーキ力が得られる仕組みになっているのです。(「電空協調」と言います。)

● 他にも、「回生ブレーキ」が効かなくなる現象として、「回生失効」があります。「回生ブレーキ」が発電した電気エネルギーを他に誰も使ってくれなければ、エネルギーを消費しないのでブレーキがかかりません。これが「回生失効」です。

ただし、神戸市交通局の場合は、近くを走る電車が電気エネルギーを消費してくれなくても、変電所が逆流してきた電気を有効利用する「 二段構え」の仕組みになっていますので、この「回生失効」は稀にしか起こりません。