第4回 真夏の神戸、街中の生活

神戸で迎える3年目の夏、真っ只中。
家からのぞく六甲山脈は、みるみるうちに夏色になり、山の緑と空の青のぱきっとしたコントラストがまぶしい。8月はとにもかくにも暑くて、外に出るのもおっくうになってしまう。テレビでは甲子園の熱戦が繰り広げられている。そう、神戸に来たからには、一度は甲子園球場に行って熱い甲子園を観戦してみたいと思っている。ビールとうちわ片手に思いっきり大声で応援したりして。本記事の公開翌日は決勝戦。さて、参戦しているだろうか?

 


ところで家にいると、突然「ボーーーッ、ボーーーーッ」とものすごく重低音で地響きのような音が響き渡ることがある。不意打ちでやってくるその音に、毎度「ビクゥ」となる。窓を閉めていても聴こえるその音の正体は、山とは反対側の海辺に停泊している船の汽笛だ。海とはだいぶ距離があっても聞こえるその音に驚くと同時に、毎度港町に住んでいることを感じる合図でもある。一体、どのあたりまでこの汽笛の音は届いているものなのだろう?みなさんの家でも聞こえますか?こんなことでも感じる、山と海のあいだ。

 


この街では教会の鐘もよく聞こえる。街中に響く鐘の音はアムステルダムに滞在していた頃以来で、異国感が漂う。多国籍な町=神戸ということを生活の中で実感している。近くのモスクでは、集会があると隣の公文の前にイスラム教徒の方々が集っていたり、タイ料理屋さんでラマダン終わりの方々と居合わせたり。全身黒色のブルカをまとい、子供を乗せて電動自転車を走らせるお母さんの姿や、ターバンやひげを生やしたインドの人たちが、山の上の茶屋でおでんを囲んでいるのを目撃するのも日常の風景。教会や神社、寺院、モスクなどさまざまな宗教施設が密に集まっていて、それぞれのコミュニティで、それぞれの距離感で暮らす姿は、いつかの日本の未来の縮図なのかもしれない。そして、その影響は食文化にも色濃く現れていて、私はというと近所のハラルフードの食材店で知らないスパイスや食材に出会い、飲食店では本場の多国籍なローカルフードの恩恵にあやかっている。



 

神戸ムスリムモスク(回教寺院)。日本で最初のイスラム寺院。


 

モスクの向かいにあるキタノグロサリーズ。隣は中華、ベトナム料理、パン屋、ハラルフードのインド料理店と多国籍な店が連なる。



神戸に暮らしてから、電車に乗る機会が減った。かつては「◯◯を買いに渋谷に行って、◯◯は吉祥寺で」と買い物や友人に会うのも電車移動が当たり前だったのが、今では徒歩圏内で事足りてしまうことが多い。山のほうから海まで自転車で走らせれば10分もかからない。住む場所にもよるけれど、ほどよいサイズで、つくづく神戸は生活する街だなと実感させられる。


 

このほどよさは、近所の人々との距離にも感じている。まだそれほど知り合いは多くはないけれど、この街に住みはじめてから、近い距離でいろいろな仕事や生業、暮らしをしている人と知り合う機会が増えた。顔の見える関係性は、ミツバチでないけれど半径2〜3km圏内に生態系があるようなほどよさと安心感がある。自分の住むところに限らず、神戸のそれぞれのエリアやお店などを軸に、こういったつながりやコミュニティがあり緩やかに繋がりあっているように感じる。それはこの町の人々の元々の気質や町のサイズ感も影響しているのかもしれない。



さて、暑さのなか街に出て、坂の上に目をやると、山がこちらをのぞいている。暑さのなかでしっかりと佇んでいて、なんだか見守られているような気がしてくる。北のほうを山側、南のほうを海側と呼んだり、北のほうを上がる、南のほうを下がると呼んだり、大丸百貨店の山側、海側の標識然り、東西南北の方位が日常会話に出るのもまた新鮮。今までは引越しか寝るときの枕の位置でくらいしかあまり意識することのなかった方位を日常会話で使うのに初めは苦労したが、ようやく慣れてきた。



その街でふと引き寄せられるのは、なんとも言えない隙間や余白。細い路地裏や飲食街の寂れた空間、空き地、突堤の隙間など。華やかさとは異なる、陰の部分にはどこか懐かしさと知らない面影が内包されていて、意識に残る。深く掘り下げていけば、そこには物語や記憶が存在している。都会ではあまり見かけることのなくなったそれらの風景も含めて、神戸らしさなのだろう。


 

 


このあいだのみなとこうべ海上花火大会は、自転車で海のほうまで下りて突堤で見た。街には思っていたよりも人が多く、人混みが向かう方向とは逆に走り、人が比較的少ないスポットにたどり着いた。もちろん私がそんな場所を知るはずもなく、神戸が地元の夫に連れられて。海から山から、下から上から様々な角度から見られるのも神戸ならではの風物詩なのかもしれない。みなさんはどこから花火を見上げましたか?


 


文と写真 岩崎雅美

2年前から神戸に暮らし、ときどき横浜・東京との二拠点生活を送る主婦。 編集したり書いたり、人やコトやモノをつなぐ仕事をしています。

プロジェクトディレクター/地域コーディネーター/編集者/ライター
東京では、CSR・SDGs関連のコンサルティング・レポート制作会社の株式会社クレアンにて企画編集を担当。その後、株式会社umariにて地域や分野を横断する0→1を作るさまざまなプロジェクトデザインに携わる。雑誌「TURNS」の企画・地域コーディネーター・編集を担当後、神戸に移住。移住後はフリーランスで活動中。