海、港、山、そして、まち−。いつの時代も多彩な表情をたたえる神戸は、数多くの物語の舞台にもなってきました。
本のページを繰りながら、名作に描かれた神戸の風景を歩いてみませんか。神戸ゆかりの文学を集めた「神戸文学館」もおすすめです。

第一次世界大戦後、一人の若い女性が日本各地を転々としながら力強く生きる姿を描いた林芙美子の自叙伝。放浪の旅のなかで思い立って、神戸にも立ち寄っています。貧しさややるせなさに涙しながらも前を向いて歩き続ける主人公の姿は今なお色あせることなく、読む人を勇気づけてくれます。
(七月×日)
「神戸にでも降りてみようかしら、何か面白い仕事が転がっていやしないかな…」
明石行きの三等車は、神戸で降りてしまう人たちばかりだった。私もバスケットを降ろしたり、食べ残りのお弁当を大切にしまったりして何だか気がかりな気持ちで神戸駅で降りてしまった。
「これで又仕事がなくて食えなきぁ、ヒンケルマンじゃないけど、汚れた世界の扉だよ。」
砂ぼこりのなかの楠公さんの境内は、おきまりの鳩と絵ハガキ屋が出ている。私は水の涸れた六角型の噴水の石に腰を降ろして、日傘で風を呼びながら、晴れた青い空を見ていた。あんまりお天陽様が強いので、何もかもむき出しにぐんにゃりしている。
神戸を舞台に財閥・万俵一族の運命を描いた小説。高度経済成長時代の銀行を徹底取材した作品とあって、内容があまりにもリアルと反響を呼びました。銀行頭取である万俵大介は長男が経営にあたる灘浜の製鋼会社さえ倒産に追い込む野心家。やがて一族も破綻の道をたどるストーリーは、時代の裏側をえぐった名作として幾度となく映画化、ドラマ化がされています。
神戸元町の栄町通りは、電車通りを挟んで、戦災を免れた銀行、証券会社の建物が、両側にずらりと並んでいる。戦後になって、建物を新築した大銀行は、新市庁舎のある江戸町の辺りへ移転して行ったとはいえ、戦災に焼け残った建物がたち並ぶ栄町通りは、今でも戦前からの金融街のたたずまいを残している。
神戸港に臨んだ灘浜臨界工業地帯は、朝からスモッグに掩われ、石油化学工場や、機械、造船工場から吐き出される煙が、北西の季節風に煽られて、海側の上空へ幾筋もの縞模様を描き出している。
文豪谷崎潤一郎の代表作。大阪船場の旧家・蒔岡家の四姉妹を描いた美しく優雅な物語です。住吉川のほとりに今もたたずむ倚松庵はその舞台となり、華やかに着飾った姉妹たちはここから神戸のまちへと繰り出して行きます。細雪の世界そのままの情趣を残した倚松庵。訪れる人は今なお絶えることがありません。
妙子の個展は今度は神戸の鯉川筋の画廊を借りて三日間開催され、阪神間に顔のひろい幸子の陰の運動もあって、第一日で大部分の作品が売約済になるという成績を挙げた。幸子は三日目の夕方、会場の取り片附けを手伝いかたがた雪子や悦子たちが連れて来たが、残務を終えておもてへ出ると、
「悦ちゃん、今夜はこいさんに奢って貰お。こいさんお金持ちやよってに」
−雪子はたまに上本町の本家へ帰って四五日もいてから戻って来ると、生れ変ったように気分がせいせいするのであった。彼女が今立って見おろしている南側の方には、芝生と花壇があり、その向うにささやかな築山があって、白い細かい花をつけた小手鞠が、岩組の間から懸崖になって水のない池に垂れかかり、右の方の汀には桜とライラックが咲いていた。








