第37回 恵方巻き

大阪で生まれ育った私が幼少の頃から「今日は節分やから、丸かぶりやで」などと言われて接していた、太巻き寿司を切らずに食べる謎の風習。いつのまにかそれには「恵方巻き」という立派な名前が付けられて、この十五年ほどで全国的な流行になった。感心するのはどなたが考えたのかは知らないが、一本の巻き寿司を前にしてそれを「恵方巻き」と命名した行為で、『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)でみうらじゅん氏が書いていた『まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです』『「ゆるキャラ」と名づけてみると、さもそんな世界があるように見えてきました』という境地を思い出すのだ。いつだって流行りの最初には先駆者による真似の出来ない名付け行為がある。

パリッコ このあたりでナオさんが突然言いだしたんですよ。「次、あのあたりにチェアリングしてみません!?」って。
スズキ そうだったかな、いや、チェアーなので(笑)。
パリッコ 「そんな言葉あったっけか?」と思いつつ、めっちゃ自然に受け入れました。「そうしますか!」って(笑)。
スズキ チェアリング誕生の瞬間ですね。
パリッコ ちょっとアウトドアスポーツっぽい響きがいいっす。
スズキ 「ツーリング、ボルダリング、チェアリング、どれいく?」みたいな。
パリッコ 「酒飲めるやつがいいな~、じゃあチェアリングで!」
スズキ そんな感覚で楽しめます。
(飲み方の新たなる可能性「チェアリングのすすめ」)

最近いちばんすごいと思ったのは、アウトドア用の安い折りたたみ椅子を持ち歩いて、屋外の適当な場所に設置し座って酒を飲む行為を「チェアリング」と名付けたものだ。ベランダや庭に椅子を持ち出して酒を飲むくらいのことは誰だって考えるだろうし、あるいは景色の良い場所に立った時「ここに椅子でも置いて酒飲みてえな」などとぼんやり考えた事は私にもある。しかしそのためだけに折りたたみ椅子を買って移動し、自分がいる場所が酒場なのだという考えのもと、座って飲酒するというこのシンプルで見事な行動力はなかった。バーベキュー等のアウトドア活動とチェアリングが違うのは、前者はあくまでも椅子が目的(野外活動)のために奉仕する手段でしかないのに対し、後者は椅子そのものが主役であり目的である点だ。雑誌『酒場人』第2号(オークラ出版)では言葉の考案者であるスズキナオ氏とパリッコ氏によって「チェアリング」命名の瞬間が語られている。

 

「チェアリング」この響きを聞いた瞬間の、自分もやってみたくなる感がすごくて、雑誌を読んだ後すぐに私はコーナンで千円ほどのキャンプ用折りたたみ椅子を買い、まずは須磨海岸に向かった。そこで今日は私が厳選した神戸のチェアリングスポットを紹介していきたい……と言う話ではなくて、冷静になろう、チェアリングの事はまた次回。今日書きたいのは恵方巻きの話だった。

 

2月3日。行くあてのない親子連れにとって心強い味方である神戸どうぶつ王国で、レッサーパンダ、カピバラ、カンガルーにスタッフ手作りの恵方巻きがふるまわれるイベントがあった。人間が恵方巻きを食べても「はあ、そうですか」としか思わないが動物たちが主役となれば子供を連れて行くしかない。

 

大切な恵方巻きを水に落として台無しにしてしまったレッサーパンダに比べ、もっとも食いしん坊だったのがカピバラ。あまりの食いつきの良さからスタッフのお兄さんに「まだだ、まだ開始ではない」と右膝で制止されている。

 
 

ひとつ手にとらせてもらったカピバラ用の恵方巻きと、部外者のためイベントに参加できないゾウガメ。

 
 

本番前の出待ちしている様子がここまで絵になる動物がいるだろうか。

 

これだけ立ち姿がキマっているのは日活時代の石原裕次郎か恵方巻きを食べる前のカンガルーだけである。

 
 
 
 

一日の赤鬼青鬼稼業が終わった後の、去って行く男たちの背中。
本日このエッセイの更新を確認した後で、ホルモン焼きの中畑商店(稲荷市場)に向かう私の背中もこんな感じだ。
さあ、飲みに行くぞ~。

 

文と写真 平民金子

写真を撮ったり文章を書いたりしています。1975年生。東京か大阪かメキシコにいましたが、現在は神戸在住。


神戸市広報課より

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(掲載内容は2018年2月7日現在の情報です)

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