神戸市-KOBE-


本庶佑先生(神戸医療産業都市推進機構 理事長)インタビュー
『節目を迎え心新たに挑む 最先端医療の実用化』

最終更新日
2018年10月2日
  • インタビューは2018年ノーベル生理学・医学賞の受賞前に行われました

  現在、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構の理事長で京都大学高等研究院副院長・特別教授の本庶佑氏。中学時代に野口英世の伝記を読んで人命を救いたいと医学の道に進み、PD-1阻害によるがん免疫療法を開発。夢の抗がん剤と言われる「オプジーボ(R)」の創薬に大きく貢献したことでも知られています。「自分の知りたいことを研究する」をモットーとし、ゴルフとおいしい食事がパワーの源だと語る本庶理事長に、機構の今と未来についてうかがいました。

『節目を迎え心新たに挑む 最先端医療の実用化』

20周年を迎えた医療産業都市へどのような思いを持っていますか?

  今日の医療産業都市の発展があるのは、本プロジェクトにスタート時から携わってこられた井村裕夫先生(現・公益財団法人神戸医療産業都市推進機構名誉理事長)のご尽力があってこそ。理化学研究所の大規模な研究群の誘致だけでなく、神戸市立医療センター中央市民病院や兵庫県立こども病院の移転にも成功されました。医療産業都市の名にふさわしく専門的で高度な医療を提供する施設や医療関係企業がいくつもそろったことは大きな成果です。そのご活躍ぶりは非常にすばらしいものだと思っています。

 井村先生からバトンを受け継いだ私が今感じているのは、これからが医療産業都市にとっての正念場だということ。数多くの研究機関や病院、医療関連企業が集積し、数の面ではかなり充実してきました。今後はもう少し違う形で新しい仕組みを取り入れながら、都市全体の質を向上させることが大事ではないかと。もう一段階上を目指す時期が来ていると思います。

神戸医療産業都市推進機構となったことでの変化や強みは?

  2015年に私が理事長に就任し、まずは機能の分担を整理することに着手しました。その一つとして、財政面での効率化を目指し2017年に先端医療センター病院を神戸市立医療センター中央市民病院と統合。一体運営を市民病院にお願いしました。今年、神戸医療産業都市推進機構が発足してからは、機構では新しい先端医療技術の研究・開発など、われわれ研究者にしかできないことに力を注ぎ、医療機能や治験、臨床研究については市民病院に任せています。その結果、市民病院は708床から768床へと病床数が増えてサイクルが良くなり、経営状況も明るい兆しが見えてきました。相乗効果で機構も黒字化を果たし、事業が進めやすくなったと実感しています。

 また、神戸市とも協力し、ポートアイランドの中に集積したさまざまな企業・団体との相互連絡や連携を強化するための仕組みを立ち上げました。それがクラスター推進センター(CCD)です。予算とコーディネーターの数を補強し、ようやく動き始めたところですが、佐藤岳幸センター長率いるCCDの今後の活躍には大いに期待したいところです。基盤が整い、これからは徐々にですが新しいことにもチャレンジしていこうと考えています。

 福島雅典センター長を中心とした医療イノベーション推進センター(TRI)では、日本中のメディカルシーズを臨床に移す仕組みがほぼ完成しているので、次は治験へ移すための仕組みを構築しなければいけません。また、細胞療法研究開発センター(RDC)でも、川真田 伸センター長たちが細胞治療を安全で確実かつ身近な医療とするための取り組みを行っています。目下力を注いでいるのは、細胞製剤製造のオートメーション化の実現です。細胞製剤は温度管理や酸素濃度などの変化に敏感で、コントロールするのがなかなか難しい側面があり、これまで人の手により製造されてきたために品質が均一化しにくいという弱点があります。これをいかにして確かな品質管理ができるようにするかが最大の課題。品質管理精度の高いオートメーション機器が実現化すれば、みなさんが医療への幅広い応用に期待を寄せているiPS細胞も臨床の場で安定して使えるようになるでしょう。

 鍋島陽一センター長が指揮をとる先端医療研究センター(IBRI)では、がんの免疫療法、アルツハイマー、老化に伴う機能障害などについての研究に取り組み、すぐに臨床に結びつくシーズ探しも今現在行っているところです。より一層、新たなシーズを生み出す研究にも努力していかなければならないと考えています。また機構としては、臨床応用に役立てるべく企業との共同研究にも積極的です。Meiji Seikaファルマとシスメックスとそれぞれ共同研究契約を結び、新しい治療薬や診断技術を開発するための研究を始めました。今後もさまざまな企業と連携しながら新たな挑戦を進めていきたいと思っています。

機構や医療産業都市の未来図をどのように描いていますか?

 ポートアイランドの敷地は広大です。今後はさらに企業や団体、医療機関が増えていくと予想され、医療産業都市の規模はますます拡大していくことでしょう。そのなかからたとえば、大当たりするベンチャー・中小企業がいくつかでも出てきたなら、医療産業都市全体に非常に良い流れを作ってくれるのではないかと思っています。すでに実績のある大手製薬会社などが、さらに新しい展開を生むことがあってもいいですよね。これからも、医療産業都市が医療関連企業などにとってチャレンジしていける場所であり続けたいという思いは常に持っています。

 その一方で、新たに構築していかなければならないのは研究者たちと神戸市民との関係性です。これまでのところ、市民と私たち研究者が直接対話するような機会に乏しいのが現状で、医療の実用化までのプロセスを市民の方々に理解していただきにくいということがあります。私たちは正しい情報を発信しながら、研究者と市民との間にあるギャップをマスコミやメディアが埋めてくれることに期待しています。

 私たちが神戸市民のためにできることは、日々の研究の結果をきちんと出すことです。新薬を生み出すことで人々が病気の苦しみから解放されるだけでなく、企業が収益を上げ、その税収で神戸市が潤うと市民のみなさんにも還元されていきますよね。もちろんその幸せは神戸市民だけにとどまらず、ひいては世界中の人々の幸せにもつながるでしょう。国内外から注目されている医療産業都市が身近にあることを、すべての神戸市民に誇りと思ってもらえるよう、私たちはこれからも努力を続けていきます。

以下は、神戸医療産業都市推進機構に関するお知らせです。

公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構とは

 阪神・淡路大震災後、神戸は傷ついた経済の立て直しと市民の命を守ることなどをビジョンに掲げ、神戸医療産業都市の取り組みをスタート。神戸ポートアイランドに最先端医療技術の研究開発拠点を整備し、医療関連企業の集積を図り、次世代の医療システム構築を目指しています。「神戸医療産業都市推進機構」は、神戸医療産業都市に集まる多くの人や情報、様々な知恵を結集させ、健康長寿社会の実現に向けた課題解決策を神戸から世界へ発信していくための中核的支援機関です。

2018年4月 新たに発足

神戸医療産業都市の推進母体として、2000年3月に設立された「先端医療振興財団」は、本年4月に発展改組し、「神戸医療産業都市推進機構」として新たに発足しました。革新的な医療技術をいち早く市民の皆様に届けるとともに、研究機関・大学、医療機関、医療関連企業等の連携を推進し、イノベーションが創造されることを目指して、4つのセンターによる新たな推進体制を立ち上げました。

組織について

先端医療研究センター(IBRI)

がん、脳卒中や認知症の診断法・治療法の開発、老化のしくみの研究など、『健康長寿社会実現』の基盤となる研究を推進します。

医療イノベーション推進センター(TRI)

これまで治療方法がなかった疾患を克服する新しい医療技術の研究開発を強力に支援・推進し、日本で実用化された技術を全世界へ展開していきます。

細胞療法研究開発センター(RDC)

細胞治療をより安全、確実に実施するため、試験方法の策定や細胞培養法の規格化の研究・開発、 次世代細胞培養システムの開発等を進めています。

クラスター推進センター(CDC)

神戸医療産業都市のコンシェルジュとして、企業・団体の事業化支援や連携強化と国際展開、国内外への情報発信の推進に取り組んでいます。